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東京家庭裁判所 昭和36年(家)8928号 審判

国籍 アメリカ合衆国 住所 東京都

申立人 エドワード・F・ボガード(仮名)

国籍 フィリッピン国 住所 申立人に同じ

事件本人 ジェンキンス・T・ラウレル(仮名)

主文

申立人が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

本件申立の要旨は、申立人は一九三四年十月十七日生れのアメリカ合衆国人で現在ニューヨーク州に属する者なるところ、一九五九年新聞記者として来日以来生活の本拠を東京におき一九六〇年十二月七日事件本人の実母であるエミリー・ラウレルーと婚姻し、爾来申立人は妻及びその連れ子である事件本人と生活を共にし実の親子のような愛情を以て夫婦で事件本人を養育し来り、その間仕事の関係上暫らく韓国に居住したることあるも恰も同一家族員のように事件本人を同地に伴い再度日本に帰るや一九六一年五月四日永住の意思を以て東京都○○区○○町一二番地の現住所に住所(domicile)を設定し家族の生活の本拠地として家庭生活を営むに至つた。申立人の妻は日本人をその母とし、フィリッピン人を父として一九三五年三月三日大連に生れ、今次大戦の終了後一時本国であるフィリッピンに赴きたることあるも、父が選挙に際し反対党のため殺害されてより身の危険を感じ母と共に一九四六年母の生国である日本に帰つてからは三年毎に滞日許可を更新して十数年に亘り日本に居住し、その間に米国人との間に婚外子である事件本人を一九五五年十二月八日分娩したのであつて、母子共にフィリッピンの国籍を有する者であるが、申立人と婚姻したる関係上日本に永住するか夫の都合によつては夫と共に米国に帰ることはあつてもその本国に帰つて生活することなどは現在予想し得ない情況にある。而して申立人は婚姻以来つとに事件本人を自己の養子としようとしていたのであるが来る九月十八日同人を入学させることになつているのでこの機会に予ての志の実現をはかりたい。なお申立人は事件本人を実子のように可愛がり事件本人も申立人を実父のように慕つているのであるし、申立人は現在月収は四五〇弗でその他にも相当額の預金もあり、事件本人を監護教育するの能力を具備するものと云うべく、事件本人としても実母と共にその夫である養父と家族として同居し養育されることはむしろその幸福のため望ましい。法例一九条一項によれば、養子縁組は各当事者の本国法によるべきであるから養親である申立人については同法二七条三項の規定によりニューヨーク州法によるべきところ、当事者双方のいわゆる住所が東京にあること明らかであるから、結局本件申立については凡て当事者双方の住所のある法廷地法である日本民法に準拠すべきであるが、養親の本国の承認を得るには許可審判を得て行為地の方式による縁組の届出を為すのが万全の策であるので、実母の縁組の同意を得て本申立に及んだと云うにある。

按ずるに、申立人の審問の結果及び調査官の調査の結果と申立人より提出された証拠書類を彼此綜合すれば、申立人主張の事実を認めることができる。そうだとすれば養親子双方のいわゆる住所(domicile)が東京にあること疑を容れないところであるので法例一九条一項、二七条三項、二九条の規定に則つて養父の側としては一応ニューヨーク州法に準拠すべきであるが、アメリカ合衆国においては一般に、養親又は養子の住所地の裁判所が養子縁組について裁判権を持ち、且つ管轄権のある法廷地法に準拠すべきものとされているので結局日本民法に準拠すべきものと云うべく、又養子の側としては、申立人主張のようにフィリッピン国の国際私法によると未成年者を養子とする縁組の許可は一応養子の住所地法に準拠すべきものと推測されるが、同国民法を制定する法律一五条では家族の権利義務又は人の法律上の身分、地位及び能力に関する同国の法律は、外国にある同国人にも適用される旨いわゆる本国法主義をとるものとも解せられるので、フィリッピンの法律の要件を充足するや否やを検討するに、前記認定事実に基づく本件申立はその要件を充足するものと云うべく、しかも同国裁判所規則一〇〇号(未成年者の養子縁組及び監護)第二節の規定によれば未成年者を養子とするには、第一審裁判所の許可を求むべきものとされている。更にニューヨーク州法には日本民法七九八条但書のような規定はなく少くとも未成年者を養子とするには裁判所の審査を経て養子決定を得なければならない関係上純然たる日本内地の但書の場合のように単なる戸籍の届出のみによつて養子縁組が効力を生ずるものとはおもむきを異にしているので、本国の承認を得るためには許可審判を必要とする事由もあり、要するに養親子双方を綜合して結局裁判所の審査を経るのが妥当と解すべく前記認定のような許可申立事由は未成年者である事件本人の将来の幸福のため却つて望ましいものと解せられる。

本申立は理由があるので、これを認容すべきものとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 加藤令造)

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